糊(のり)は、表具の仕事に欠かせない接着剤です。一年でもっとも寒い時期、 花粉やカビの活動が少ないこの時期に、毎年、一年分の糊を仕込みます。

金沢職人大学校の表具教室では、毎年、一年分の糊を仕込みます。気温が低く、カビなどの活動も少ない冬は、糊づくりに適した季節です。

大きな鍋を囲み、みんなで交代しながら糊を混ぜるのも、この時期の恒例行事です。

(2024年1月20日 金沢職人大学校 表具教室)

 
 

◾️生麩(しょうふ:小麦粉からグルテンを除いたもの)を業者から仕入れます。
◾️水で溶き、火にかけてながら約15分間、休まずかき混ぜます。
◾️加熱することでデンプンの成分が溶け出して糊化し、粘りのある糊になります。
◾️炊き上がった海苔は、甕(かめ)に入れ、紙をかぶせて保管します。
◾️長く保存している甕は毎年状態を確認し、表面に生じたカビなどを取り除きながら熟成させます。

表具師たちはそれぞれの仕事場に複数の甕を保管しています。使うときに用途に合わせて糊を調整します。

大切なのは、ただ「よく付く糊」をつくることではありません。表具では、必要な強さを保ちながら、できるだけ弱い糊を使うことが重要です。

それには主に三つの理由があります。

1) 将来、修理や仕立て直しをするときに、作品を傷つけずに剥がせるようにする
2) 掛軸などを巻いたり広げたりの動きに耐えられる、しなやかさを保つ
3) 長い年月のなかで、糊によるシミや変色などが生じるのを、できるだけ防ぐ

表具師は、こんなことを言います。

「50年後の未来の表具師に、『前の職人、下手だったな』と言われんように仕事をする」

作品の厚みや状態、そして裏打ちの段階――肌裏(はだうら)・増裏(ましうら)・総裏(そううら)――によって、必要な糊の強さは違います。「剥がれない最小限の強さ」を見極めて、糊の濃さを繊細にコントロールしています。

建築がそうであるように、表具の仕事は、完成した瞬間だけではなく、使われる年月や、いつか修理する人の手まで考えて、時間と空間に向き合っています。



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